アルツハイマー型認知症などで、記憶力に障害があると、体験した記憶はすっぽりと抜け落ちるものの、その時の感情や感覚だけは残りやすい。そのため、利用者の言動に対して、否定をすると、利用者に不快な感情が蓄積され、興奮しやすくなったり、介護職に対して嫌悪感だけが残り続けたりするので、否定してはいけないというのが、認知症ケアの鉄則となっている。
否定する対応というのは、たとえば、利用者が自分のご飯はまだなのかと尋ねたとき、さっき食べましたよなどと返してしまうことだ。意識的に否定している場合もあれば、反応として否定してしまっている場合もある。否定したくなる場面というのは、誤解を解きたい、正しく現状を認識してもらいたいという背景があるが、多くの場合、否定的な返答が利用者に良い反応をもたらすことはない。
他の例としては、自分の財布を盗んだといわれることもある。この場合は冷静になることが大切だ。まず自分が今どのような状態にあるのかを確認する。利用者の言動に焦ったり、困ったりしている自分を発見したら、自分は焦っているな、困っているなと心の中でつぶやいて認識することが重要である。その上で、否定でもなく肯定でもない対応として、要約して返すという方法がある。財布をとられたと思われているのですねと返せば、利用者は自分の意見が否定されたと感じることはない。むしろこの人は自分の話を聞いてくれる人だと好意的に受け取ってもらえる可能性もある。要約して返すという対応は、否定に比べ格段に関係が壊れにくい対応となる。